2010/10/29

フォトジャーナリズム「We The People」プロジェクトについて。



2004年にスペインからアメリカ合衆国へ引っ越し、まず最初に滞在したのが、
ハーレムにある低所得者用の公団アパート、いわゆるプロジェクトだった。

前夫のおばさんがそこに長年住んでいたので、アパートが見つかるまでの間、そこで私たちはしばらくお世話になった。

私のプロジェクトのイメージといえば、もちろんヒップホップでおなじみのミュージックビデオだ。
ナズやJay-Zがプロジェクトについてラップし、映像で流れてくるそれらのイメージは、日本という温室で育った私には、とても刺激的だった。

前夫はサウスブロンクスのプロジェクト出身だ。
ミュージシャンから刺激を受け、プロジェクトに憧れすら抱いている私を、彼は時々冷ややかな目で見ていた。

その意味を、暮らしはじめて私はやっと知ることになる。

おしっこ臭いエレベーター、夜になると聞こえてくる銃声、自らの子供を平気で引っ叩き罵る若いシングルマザー、外でうろうろした日には、どこからか頭上に卵や唾が落ちてくる。
この中で育ったら、この環境しか知らず、いつの間にかドラッグを売り買いして金を稼ぐようになり、下手したら牢屋にぶち込まれて、皮肉なことにそこで初めてプロジェクトから出る、なんてことになる。

でも、その環境にいながら、もっと違う「選択」があると気がついた人たちもいる。
そういう人たちは、着々とプロジェクトから出ることを計画し、それを実行する。
でも、気がつきながらも、敢えてプロジェクトに残る人たちもいる。

友人であり、「We the people」のパートナーのリコはワシントンDCにあるプロジェクトの出身だ。
彼は就職先を探している際、自分が住んでいるエリアの郵便番号で、早々と選り分けられ、面接すら受けられない、という経験をしている。

オバマ大統領は、高等裁判所/最高裁判事にソニア・ソトマイヨールを任命した。
彼女はブロンクスのプロジェクト出身だ。それを知ったマスコミの、あの叩き様はなんだったんだろう?

プロジェクトに住んでいる人は、みんなが犯罪者なのか?

前夫の家族は、みんなプロジェクトで育った。そして、しばらくお世話になったあの気の良いおばさんの顔を思い出し、少し胸が痛む。

現在のパートナーのデショーンも、ブルックリンのプロジェクトで育ち、つい昨年までそこで生活していた。
彼の家族を時折訪れると、お腹が減った私にお母さんが温かい食べ物を与えてくれる。同じビルの住人たちはノックもせず入ってきて、いつの間にかみんなでテレビを見ながら笑っている。上に住むおじさんは、日曜日になるとレゲエを大音量で流すから、映画もろくに観られないとみんなはボヤく。
子供たちはビルの中庭にあるジャングルジムで鬼ごっこをし、私もときどきそこに交じって遊んでもらう。

プロジェクトには、そういう普通の人の生活が、しっかりとある。

昨年から始まった「We The People」では、プロジェクト出身、またはプロジェクトに関わる人たちの撮影は50人に及んだ。
それらの写真を通じて、プロジェクトのまた違った一面が表現できたら嬉しいなと思う。

詳しい情報についてはこちらから。
"We The People: The Citizens of NYCHA in Pictures + Words"