2009/04/11

ある夜のマンハッタンで

スチールパンを演奏しているおじさんがいた。
もうすぐ時計は夜中の12時にさしかかろうとしている。

ホームで電車を待つ人の数はまばらで、それでも数人はおじさんのメロディーに耳を傾けていた。
傾けたくなるようなメロディーを、おじさんは奏でていた。
胸にぐっとくるような、夜中にぴったりの、ちょっとせつなくなる音だ。

一曲が終わると、向こうのホームにいた人たちからも拍手が聞こえてきた。
おじさんは微笑む。
黒人の若いお兄ちゃんが、1ドル札をおじさんの前に置いてある缶の中へ入れる。
少ない観衆の、多くの人が、次々とおじさんにお金を置いていく。

めったにこない電車が到着すると、ある人は「Thank you」とおじさんに伝えて、その電車に乗り、去って行った。

ブルックリン行きの3番電車が来た。おじさんに少しばかりのお金を置いて、私も電車に乗る。
おじさんは私を見て、にこっと笑う。

家に帰ろう。